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※手術の写真を掲載しておりますので、
苦手な方はご注意ください。

犬の心臓病 僧帽弁閉鎖不全症 その3
 前回に引き続き、僧帽弁閉鎖不全症という心臓病のお話になります。
前回は症状がない状況の僧帽弁閉鎖不全症の話でしたが、今回はいよいよ深刻な症状…命に関わる症状の話となります。
 僧帽弁閉鎖不全症のような心臓病は末期になると、心不全という症状を起こします。
心不全には左心不全と右心不全とあるのですが、僧帽弁閉鎖不全症は左心不全を起こす病気です。
僧帽弁が仕切りをしている左心房と左心室は、肺で酸素を取り入れた綺麗な血液を左心房で受け取り、左心室で血圧を作って大動脈から全身へ血液へ送り出すというポンプの役割をしています。
僧帽弁がうまく閉じなくなることで、全身に届けるはずの血液のうちの何割かが左心房の側へ逆流します。
重度な僧帽弁逆流が認められる犬の心臓超音波
血液の逆流が認められる
 初期には心臓が大きくなることで、なんとか血液の流れを保ち症状は出ませんが、病気が末期になると左心房に血液が過剰に逆流し左心房の血圧の上昇が起こります。
すると肺からの血液を受け取る左心房は一杯一杯となり、肺から血液が帰って来れなくなります。
肺で渋滞を起こした血液はうっ血という状態となり、徐々に肺の血管から液体が滲み出し肺は水浸しの状態となります。
この状況を肺水腫と呼び、溺れているほど苦しいと表現されるほどワンちゃんは苦しい思いをして、最終的には呼吸ができなくなり死亡することになってしまいます。
 肺水腫が一度出現するとステージはCへと進行します。

肺水腫の治療は
①強心剤
②利尿剤
基本的にはこの組み合わせで行われ、上手く肺の水が引いてくれればなんとか命は助かります。
しかしその後は薬を投薬し続ける必要があり、場合によっては再発を繰り返します。
この病気は進行性の病気であり薬では壊れた弁を修復することはできないためいずれ薬が効かなくなり1年以内に亡くなってしまうことが多いです。
 ここ10年くらいで以前より薬が良くなったおかげで、肺水腫の出現する時間を遅らせたり肺水腫から救命できてしばらく良い時間を作れたりということができるように進歩してきました。
それでもお薬での治療にはいずれ限界があるというのが、現状の内科治療の辛いところです。

 次回は、自分の生涯のテーマである僧帽弁閉鎖不全症を手術で治すことについての話をさせていただきます。
手術は非常に大変である上、命懸けの手術となってしまいます。
しかし手術を乗切ってくれたワンちゃんは肺水腫で苦しむことは無くなり、お薬も減量、もっとよければゼロにできます。

文責 獣医師 井口和人
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