猫の甲状腺機能亢進症
猫のホルモン疾患のなかでも最も診断される機会の多い病気が甲状腺機能亢進症です。のどに左右ある甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンが過剰になることで様々な臨床症状が生じます。甲状腺ホルモンは循環器をはじめ、肝臓や消化器、泌尿器などあらゆる組織へ作用し、作用自体も多岐にわたるため、甲状腺ホルモン過剰においては考慮すべき項目が多くあります。また、ほとんどの猫の甲状腺機能亢進症は高齢であり、心疾患、腎疾患などを併発していることも多く、この場合には合併症の管理を含めて対応する必要があります。
主な症状には以下のようなものがありますが、体重の変化以外ほとんど示さない場合もあります。
・体重減少
・多食、嘔吐下痢などの消化器症状
・活動性亢進
・被毛粗剛(毛並みが悪くなる)
・多飲多尿
・頻脈、高血圧
・喘ぎ呼吸(パンティング)など
診断
甲状腺機能亢進症を診断するためには、甲状腺ホルモンの値を計測します。血中の総サイロキシン(TotalT4、単にT4と呼ばれる)は検査機関や院内機器で測定が可能で、下のような基準で判定します。また遊離サイロキシン(freeT4、FT4と呼ばれる)は血中で甲状腺ホルモン活性を持ち総サイロキシンの一部として存在するもので、T4と併せて測定し診断の補助とします。腫大した腺癌などでは超音波検査による画像診断を用いて形態的に診断していきます。
甲状腺機能亢進症と慢性腎臓病
甲状腺機能亢進症により体重や筋肉が落ちていることで、由来する酵素値が下がってしまうことや、ホルモンの影響で血流が増加して検査値を下げることにより、高齢の猫に起こりがちな腎臓の機能低下を隠してしまうという現象に注意が必要です。甲状腺ホルモン過剰そのものが腎臓を障害することから、甲状腺機能亢進症を診断された時点で慢性腎臓病が隠れている可能性は少なくないため、SDMAなど影響を受けない他のマーカーによって治療前に必ず腎機能の評価をしておく必要があります。
治療
甲状腺機能亢進症に対する治療には現在 ①ヨウ素制限食、②抗甲状腺薬の投与、③外科手術による甲状腺の摘出 の3つの選択肢があります。いずれの治療においても甲状腺および各種状態の経過をモニターし、合併症を良好に管理することが予後の延長につながります。
文責 獣医師 喜多見賢二
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