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免疫介在性溶血性貧血

●概要
免疫介在性溶血性貧血(IMHA)は赤血球表面の抗原に対する抗体が産生され、赤血球が破壊される疾患です。原因不明の特発性と、感染症や腫瘍などに伴う続発性に大別されます。犬のIMHAは特発性のものが多く、猫では猫白血病ウイルスやヘモプラズマなどの感染症による続発性が多いといわれています。

●症状
貧血による食欲不振、沈鬱、粘膜蒼白、運動不耐性(疲れやすい)などが一般的です。赤血球の破壊が激しい場合には発熱、黄疸、ヘモグロビン尿あるいはビリルビン尿がみられます。

●診断
血液検査により、溶血を示唆する貧血、赤血球の自己凝集、球状赤血球や網状赤血球の増加などの所見から診断します。また、クームス試験(抗グロブリン試験)により血液中の抗赤血球抗体の有無を調べます。

※球状赤血球…小さな球状となった赤血球を指します。これは抗体が付着した赤血球が脾臓のマクロファージという免疫細胞に一部食べられ、本来の赤血球にみられる中央の窪みがなくなったものです。
※網状赤血球…幼若な赤血球であり、ニューメチレンブルー染色をすると網状の構造物が青く染色されます。貧血の代償として造血亢進が起こると網状赤血球が増加することから、貧血の種類を調べる指標となります。

●治療
免疫抑制療法としてステロイド薬や免疫抑制薬の投与を行います。これらの反応が遅い場合には一時的にヒト免疫グロブリン製剤を投与して赤血球破壊を抑制し、免疫抑制薬の効果を待ちます。さらにIMHAでは血栓塞栓症の併発が多いことから、抗血小板薬や抗凝固薬の投与を行います。貧血が重度の場合は輸血を実施することもあります。

●症例
犬 ミックス 未去勢雄 12歳
2日前からの食欲廃絶、活動性の低下を主訴に来院されました。来院時の体温は39.0℃、黄疸と貧血(PCV 22% [正常値;35〜55%])が認められ、血液塗沫検査では網状赤血球の増加が認められました。以上から溶血性貧血と診断し、入院による治療を行いました。以下に治療の概要を記します。なおPCR検査において溶血を起こす感染症は認められませんでした。
 入院初日; ステロイド薬の投与開始。
 2日目 ; 抗血小板薬の投与開始。
 4日目 ; PCV 12%, 輸血実施。免疫抑制薬の持続点滴開始。
 6日目 ; 抗凝固薬の投与開始。
 7日目 ; ヒト免疫グロブリン製剤を投与(12h持続点滴)。
 12日目 ; PCV 18%, 免疫抑制薬を内服薬に切り替え。
 13日目 ; PCV 21%, 退院。内服薬4種(ステロイド薬、免疫抑制薬、抗血小板薬、抗凝固薬)を処方。
退院1週間後における検査では貧血の改善(PCV 31%)が認められ、元気・食欲共に良好とのことでしたが、その翌日から状態が悪化し、翌々日にお亡くなりになりました。亡くなる前日のPCV値が30%であり貧血は改善していたことから、死因は血栓塞栓症などの併発疾患であると考えられます。IMHAでは血栓が生じやすい状態となっており、血栓による血流遮断が起きたことで臓器機能不全となり、状態の急変に繋がった可能性が考えられます。
IMHAにおける死因として、過去の報告では腎不全、肝不全、心不全、特発性血小板減少紫斑症(ITP)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、肺血栓症が挙げられています 1)。IMHAは一度症状が落ち着いても再発することが多いとされており、致死率の高い疾患です。発症後は早急な対応と、治療効果のモニタリングが必要となります。

1)Klag AR, Ginger U, Shofer FS, Idiopathic immune-mediated hemolytic anemia in dogs; 42 Cases (1986-1990). J Am Vet Med Assoc, 1993 Mar 1;202(5):783-788.



文責 獣医師 佐藤玲奈